桜盤が生まれるまで

子どものころ、父とよくキャッチボールをして遊びました。
「まっすぐ投げてみぃ」「そんなに力いれんでもええねん」
そんな声を思い出すと、どこかあたたかい気持ちになります。

父とキャッチボールする温かなイラスト

父は、京都大学出身の方が多く在籍する会社に勤めていました。
いつも静かに本を読み、物事を深く考えるような人でした。
小さな私は、そんな父を少し誇らしく思っていたのかもしれません。

「頭ええなぁ、お前は」と、幼い私によく言ってくれました。
大きくなるにつれ、その言葉に応えられていないように感じることも増えて、
少し距離を感じてしまった時期もありました。

そんな中でも、自分なりに努力していた証として、
エール予備校が主催する「関関同立スーパーテスト」を受けたことがあります。
結果は、数学の偏差値が 73.2 という、自分でも驚くような数値でした。
この経験が、今の「プログラムを書きたい」という気持ちにつながっているのだと思います。

模擬試験の成績表(数学偏差値73.2)

あのころから、ずいぶん時間がたちました。
直接的に気持ちを伝えるのは少し照れくさくて、
結局、父に沖縄旅行をプレゼントしたことが、私なりの感謝の形になりました。

――父が亡くなったのは、3年前のことです。
今でもふと、「もっといろんな話がしたかったな」と思うことがあります。

私がゲームを作り始めたのは、その2年後からです。
「かいご姉妹」という高齢者の方向けのゲームサイトを立ち上げ、
少しずつですが、心を込めて作品を増やしてきました。

父は囲碁が好きだったので、「五目並べ」もがんばってプログラムしました。
もう一緒に遊ぶことはできませんが、喜んでくれたんじゃないかな…と想像しています。

そんな想いを重ねながら、リバーシ「桜盤(おうばん)」を作り続けてきました。
サブタイトルに「京大生に試してほしい」と添えたのは、
父が大切にしていた世界に、少しでも近づきたいという想いからです。

もう父に直接感謝を伝えることはできませんが、
そのぶん、今を生きる高齢者の皆さまに、ささやかな楽しみをお届けできたらと願っています。
「かいご姉妹」が、どこかで誰かの穏やかな時間につながっていたら嬉しいです。